2007年12月3日。
ここからマルニスタジオの
第二幕が始まった。
デジタル全盛の時代の中、マルニがアナログ・ニュースタンダードへの先陣を切る。
共演は、国内商業スタジオでは初来日となる、英国の期待の彗星、SSL Duality。
「今までの人生は、この卓に出会う為にあったんだと思う」
小山:有り難うございます。弊社は14年前にレコーディングスタジオをオープンしまして、追って10年前にポストプロダクション(映像編集・MA)もオープンして、2つの顔を持ったスタジオとして運営してきました。私がマネージメントしているのはレコーディングスタジオです。14年前の当時に斬新な卓として話題になっていたユーフォニクスのCS2000を導入して、産声を上げました。この卓は、通常はEQのつまみやフェーダーの下に埋め込まれているオーディオ基盤を、本体から切り離して別の場所に置いて、本体はコントローラーの機能しか持たない、という代物なんですよ。そうすると、音というか、電気が通る経路が最短距離になるので、音質の劣化がかなり抑えられるんです。ただ、音質が特有の塩梅で劣化するのがアナログ卓の醍醐味ではありますから、SSLやNEVEの卓に比べると、「ユーフォニクスは音が綺麗すぎる」というお言葉を頂く場面が多かったですね。CS2000がデジタル卓だと勘違いなさっている方も、かなりいらっしゃいましたし。
-今回、SSL Dualityの導入に踏み切ったのは、そういった背景があったからなんでしょうか。小山:そうですね。ただ、それだけではないというか、実際のところ、何を導入するのかについては、現場スタッフも含めて、かなり悩んだんですよ。ご存じの通り、ProToolsがレコーディングの中心的な存在になっている世の中ですから、デジタル卓という選択肢もあるわけです。ただ、STUDIO-1を2002年に改装した際にリズム一発録りが出来るように間取りを変えていたこともあり、やはり生音を重視していきたいなあという気持ちが、全スタッフの間で共有されていました。
-アナログ卓のメリット、デメリットについては、どのようにお考えですか。小山:まず、これはアナログ卓のデメリットというか、デジタル卓のメリットだと考えて頂きたいのですが、音の立ち上がりのスピードが速い近年の打ち込みの音源に対しては、デジタル卓の方がマッチングしやすい部分もあると思うんですね。音の分離を強く求められるような場面でも、デジタル卓は優秀な結果を出してくれると思います。ですが、これが必ずしもアナログ卓にとってのデメリットになるわけではないんです。音と音がパッキリとセパレートされるよりも、良い塩梅で馴染んだ方が、ミックスとしての表現力が高い場面は多いと思うんですよ。「何も無いところは何も無い」ではなくて、何も無いはずのところに、じんわりと空気のようなものが漂っている。そういう表現力は、アナログ卓ならではの醍醐味だと思います。
小山:以前からDualityは欲しい卓ではあったんですが、欲しいからと言って即決で購入できるような価格の卓ではありませんから、慎重に検討しました。SSLの9000シリーズは、価格面だけでなく、寸法の物理的な制約もありました。4000シリーズは有力な候補だったんですが、良質な中古品が見つかるのかというのと、この先、一体何年にわたって使い続けることができるのかというのが、大きな懸念事項でした。
-使い捨てくらいのつもりで4000シリーズを導入するという選択肢は無かったわけですね。小山:ええ。実は、我々がDualityの導入を決めるに際しまして、これから先、少なくとも十年間に渡ってレコーディングスタジオを続ける覚悟で臨んでいるんです。4000シリーズだと、「三年間は大丈夫ですけど、その先のことはその時になってから話し合いましょう」というような、先行き不透明な計画になっていますからね。とても魅力的な卓だったんですが、条件を満たせませんでした。費用対効果を考えたら、アナログ卓でリズム一発録りもギリギリ可能なAWS900+というのも悪くはなかったんですが、24チャンネルの制約の中でレコーディングの自由度や作業効率が著しく制限されることは、大きなネックでした。48チャンネルをフルに使用できて、更にSSLならではの音質を追求できるDualityは、会社からの要求にも、そして我々の志向にも、運命的なくらいマッチングしたんですよ。今までの人生が、この卓に出会う為にあったんじゃないかと思えるほどです。
「音質重視とは言えないような時代に埋もれていってしまうのは、本望ではない」
小山:そうなんですよ。世界全体では既に数十台が導入されているようなのですが、日本では某専門学校さんだけらしいんです。かと言って、9000シリーズが売れているわけでもない様子ですから、スタジオ業界の厳しい現状を窺うことができます。そこで、音楽業界全体が元気を無くしている今だからこそ、我々が自ら何かを発信していくべきではないのかと思ったんですね。やっぱり、音質重視とは言えないようなプラットフォームで音源が流通していく時代だからと言って、良い音を追求することを諦めてそれに埋もれていってしまうのは、我々にとっては本望ではないんですよ。格好良い言い方をさせて頂くとしたら、「レコーディングという音の入口を任されたプロとしての、使命や誇りを忘れることなく、アナログの良さを伝えていくべきなのではないか」というメッセージを込めて、Dualityを導入しました。
-それは頼もしいです。その意気込みが音楽業界を活性化することを願っています。ところで、卓を入れ替えただけでなく、内装工事で音響面の改善も施したそうですね。小山:ええ、そうなんです。今回、音楽スタジオの内装工事では老舗の日東紡音響さんとタッグを組ませて頂きました。ワイアリングを依頼したスタジオイクイプメントさんもそうだったんですが、無理を言ってお願いして本当に短期間で仕上げて頂いたにも関わらず、予想を上回る結果を出して頂くことができました。もちろん、現場スタッフがこれからいろいろと詰めていかなければならない部分はございますし、工期の制約もあって全てに手をつけられたわけではありませんから、現状に満足してはいけないのだと思いますが、弊社のスタッフ全員が手応えを感じたのは確かな事実です。
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